Thursday, April 14, 2011

No. 5: 目標は高収益体制の構築 (April 15, 2011)

  格安航空会社がマスコミに大きく報道されてから久しいが、最近、かつてのような騒ぎが見られなくなった。格安航空会社は、もともと米国のサウスウエスト航空が確立したビジネスモデルで、食事等のサービスを撤廃し、単一機種を使用しメンテナンスコストを削減し、大空港の側にあるローカル空港を使って航空機の待機時間を減らし、予約はすべてオンラインで行う等の革新的な戦略で、格安航空券を可能にした。アジアのベンチャー企業が、同じコンセプトで、次々と格安航空ビジネスに参入している。
  ヨーロッパでも、格安航空券はブームになり、格安航空会社は大きく業績を伸ばした。しかしどの格安航空会社も、利用者数が伸び悩み、さらなる飛躍を求めて、新しい戦略を構築中である。ヨーロッパで最大の格安航空会社は、アイルランド国籍のライアンエアーであるが、この企業の業績をみると、旅客数の伸び率が、近年鈍化しているのが理解できる。2009年以前は14%であった伸び率が、2009年から2010年には6%に激減しており、2013年以降は4%になると予測されている。
  そのため、ライアンエアーは格安航空会社の看板はおろさないが、新しく開拓するルートでは、格安航空券の発売はしないと発表している。つまり、格安航空券を販売して旅客数を増やす戦略でなく、旅客一人当たりの売り上げを上げて、収益を改善させようという戦略である。パリのドゴール空港のような大空港を使用して、大手航空会社と勝負する格安航空会社まであらわれた。格安航空券だけでは、生き残りは難しいため、大手航空会社と真っ向勝負である。
  格安にするため、無駄をはぶくとしても、目の付け所は、どの航空会社も同じ。同じ戦略で、同じルートで、同じような顧客を対象にして航空機を飛ばしても、うまみはなく、激しい競争が収益を悪化させるだけである。景気が悪くなって利用者が減少すると、もともと利益が少ないだけに、資金繰りも苦労する。ある格安航空会社は、航空機を購入するとき、数量割引に目を奪われて、事業規模に比較して、保有する航空機が多すぎて、航空機を十分に活用できていない。
  これからは格安航空会社も、対象とする顧客や飛行ルート等で市場を細分化し、高収益体制を構築しなければ生き残れない時代になったようである。そうしないと、市場から消えていった格安航空会社のあとを追うことになる。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.) (Source: The Economist January 29th 2011)

Tuesday, April 12, 2011

No. 4: 日本語のものづくりの本質は?(April 13, 2011)

  インドで急成長を遂げて注目されているバイオコンという製薬会社がある。この企業の創業者は、マズムダー・ショーという女性である。彼女の父親は、インドのビールメーカーの醸造所監督であったが、ビール製造業に興味を示さない娘に、ビール醸造を科学として見ることを教えた。娘は動物学の学位を生かして研究者としてのキャリアを求めていたが、父親のアドバイスに心機一転してオーストラリアに行き、現地の大学で麦芽製造とビール醸造を学び優等で卒業し、醸造所監督の資格をもつ最初のインド女性となった。
しかし、インドに帰ってビール会社の職を得ようとしても、ビール醸造という男性社会では、就職口は見つからない。そのため、彼女は醸造業のコンサルタントとして独立することにした。そして、酵素を製造するバイオコン・バイオケミカルの創設者と運命的な出会をして、この会社と合弁会社を設立する。彼女は、1978年に1,200ドルの元手で、ガレージを事務所として起業をしたのだが、最初に雇用した社員が車のメカニックだったいうのが面白い。創業の翌年には、酵素を米国やヨーロッパに輸出し、1996年にはジェネリック医薬品の製造を始めている。現在、この企業は、5,300人を雇用する大企業となり、彼女はインドで女性として第四位のお金持ちになっている。
  バイオコンはインドで最大のバイオテック企業であり、インシュリンの生産ではアジアで最大の企業である。現在、世界の糖尿病患者は28,500万人を突破しており、2015年までインシュリンの市場は毎年20%で成長すると予測されている。そこで、バイオコンの技術を見込んで、米国のファイザーは、バイオコンにインシュリンの生産を委託する契約を交わしている。もうすでに、2億円の前金は支払い済みで、さらに15,000万円が、支払われるという。
   目標とする市場は、インドとブラジルをはじめとする新興国市場である。
この企業の歴史をみると、ビール醸造技術を科学として見ることを教えた、創業者の父親も偉大であるが、ここまでの大企業に育て上げた創業者の能力もすごい。そして、新興国市場の富裕化にともなって、増え続ける糖尿病患者の動向を正しく予測して、ファイザーとの契約を締結した経営者としての戦略的能力にも驚かされる。日本語の「ものづくり」という単語を、他の言語に正確に訳するのは難しい。日本語で「ものづくり」というと、何か技術の伝承という意味合いが強いが、日本語の「ものづくり」という言葉の本質には技術を科学として考える姿勢があることを、この企業は教えている。(Written by Shigeo Sunahara of CBC, Inc.) (Source: Businessweek Feb. 28 - Mar. 6, 2011)

Tuesday, April 5, 2011

No. 3: 選択と集中、そして世界市場へ (April 6, 2011)

  日本国内では、動きが比較的静穏なアルコール業界も、世界に目を向ければ激しい戦いが進行中である。アルコール業界の世界最大手は、ロンドンに本社をおくディアジオで、2010年の売り上げは160億ドルという巨大企業である。ギネスビール、ジョニーウォーカー、スミルノフウォッカ等の有名ブランドを一手に販売している。もともと、13年前にギネスとグランドメトロポリタンが合併してできた企業で、合併当時は、バーガーキング、ハーゲンダッツ、ピスズベリーといった食品会社も傘下に抱えていた。しかし、選択と集中をすすめ、アルコールビジネスに関係のないビジネスを、すべて売却している。
  売却で得た資金で、世界各国の有名ブランドをターゲットにして買収攻勢をかけている。そして、目標とする市場はずばり新興成長市場。現在、新興成長市場からの売上は35%であるが、これを4年から5年で50%にまで上げる予定であるという。現在、インド、中国、ブラジルの中産階級に焦点を合わせ、積極的なマーケティング活動をしている。そして、売り込むブランドは欧米の有名ブランドである。そのためにも、ヘネシーコニャックもラインアップに入れたいところで、LVHMに買収を打診している。
  もちろん、現在も最大の市場は米国で、売上の40%を占めている。ヨーロッパでは、停滞する景気の影響を受けて売り上げが伸び悩んでいるが、米国の売り上げは好調で、若者市場の売り上げは堅調に推移している。アイルランドの経済事情を考えると、アイルランドが誇るギネスビールの売り上げが伸び悩むのは当然であるが、創業250年という世界ブランドは、景気が回復すれば間違いなく売り上げも伸びる。市場の動向を考慮したマーケティングが将来の売り上げを左右する。
  ディアジオの動きは、これからの企業に大いに参考になる。もう国内市場と海外市場を分けて考える時代ではない。世界を一つの市場と考えて、その市場を細分化することが必要になっている。親が老酒を飲んでいるからといって、子供が老酒を飲まなければいけないという法律はない。所得が上がれば、さらに高級な今までに飲んだことのないアルコールを飲みたいと考えるのが普通の若者の消費行動である。いかに、これからの消費者の動向を考慮して、商品を開拓し投入するかが問われている。そのためにも、どのような企業といえども、資金はますます必要になる。

Sunday, April 3, 2011

No. 2: イケアの好業績 (April 4, 2011)

  イケアの業績が絶好調である。このスウェーデンの家具メーカーの商品は、どれもデザインが粋で、しかも価格が非常に安い。パックされた商品を自宅に持ち帰り、組み立てる手間が必要であるにもかかわらず、世界中のイケアファンがイケアの商品を求めて店舗に殺到する。一度撤退した日本に再度上陸し、店舗を増やして積極的に市場拡大に努力をしている。
この企業のすばらしさは、商品の品質向上に積極的に取り組むだけでなく、商品の価格を引き下げるための努力を惜しまない。そして、同時に地球温暖化防止の視線で、経営戦略を遂行していることである。その努力は、見逃されがちな梱包にも注目している。例えば、3人用のソファの梱包をさらにコンパクトにして、価格を135ドル下げることに成功している。この梱包のコンパクトさを追及する姿勢が、結果として、二酸化炭素の排出を大幅に削減することにつながっている点に注目する必要がある。
  この企業は1943年に創業以来、「一般の消費者が低予算で、お金持ちと同じような家具を揃えることを可能にするには、我々は何をすべきか」というテーマでビジネスを推進している。そして全社員に、常に考えることを要求している。女性の登用にも積極的で、200名の上級管理者のうち、40%は女性である。売上げの80%を占めるヨーロッパ市場の景気はよくないが、それでも、2010年はスペインで8.2%、イタリアで11.3%の売上増を記録している。また、ブルガリアやルーマニアでもビジネスは好調である。イケアの売上の15%はドイツであることは興味深い。質実剛健なドイツ人の性格にフィットして、今やイケアの商品はドイツ文化の一部になっている。
  現在、世界26カ国で284店舗を展開しているイケアはまさしく、企業がこれからのビジネスに参考とすべきものを示唆している。地球環境の視点、考える社員、女性管理職の登用、海外市場の開拓、海外市場の細分化、そして、重点を置くべき海外市場の選択等、考えさせられる点は多い。(Source: The Economist February 26th 2011)

No. 1: 自動販売機に健康食品を!(April 2, 2011)

肥満が世界的な問題になっている。テレビショッピングでは、痩せるための健康機器が連日連夜放映され、一方では、飽食がまるで美徳だと思わせるような番組が連日連夜テレビで放映されている。お腹一杯食べたら、健康機器を使って痩せましょうという意図が見え見えである。しかし、肥満になってから、痩せようとしても、そう簡単にいくものではない。
 
特に、子供の肥満は大きな社会問題であるが、米国では日本以上に深刻な問題となっている。肉食中心の食生活が問題という面もあるが、学校に自動販売機が設置されており、休憩時間に自動販売機から高カロリーのスナックをいつでも購入できることも大きな原因の一つといえる。そのため、政府が子供の肥満に本格的に取り組む方針を明らかにすると、厳しい規制を予想して学校から自動販売機を撤去する業者も少なくない。 (Source: Bloomberg Businessweek, Jan. 17-Jan. 23, 2011)